イベント情報一覧
SMKトップ > イベント情報一覧|2009年度 > 技術レポート「高速伝送対応コネクタの伝送特性評価」
2009/ 5/ 22
 

技術レポート

フレキシブルプリント配線板を用いた高速伝送対応コネクタ 伝送特性評価

 
Abstract
デジタル信号のデータ速度は年々高速化しており、これに伴う伝送品質の劣化/減衰が懸念されるため高速伝送に対応した接続が必要となっている。
当社では、内部接続用として高速伝送への要求の強いフレキシブルプリント配線板(FPC ケーブル)による接続を検討、両面FPC ケーブルとコネクタが一体となった接続方式を提案し、その伝送特性の評価結果について報告する。
Keywords
高速伝送対応コネクタ、フレキシブルプリント配線板(FPC ケーブル)、差動インピーダンス、EMI 対策

 

1.はじめに
近年のデジタル家電の高性能化・多機能化の進歩は目覚しく、扱う情報量も飛躍的に増加してきている。これに伴いデジタル信号の高速化も顕著であり、特にPC市場やデジタルTV市場ではデータ伝送の高速化・大容量化が必須となり、外部接続用としてPCI-Express、Serial-ATA、HDMIなどの高速伝送規格が次々に発表され、そのデータ伝送速度は年々高
速化している。
一方、内部接続用においてはこれまではツイストペアケーブルや同軸ケーブルが使用されてきたが、近年は液晶ディスプレイ等の機器内ユニットと基板をさまざまな形態で接続できるフレキシブルプリント配線板(FPC : Flexible Printed Circuit)においても高速伝送特性の要求が高まってきている。
これまでFPCケーブルにおいては、高速伝送特性ではなくシールド特性の向上を目的とした製品が開発されてきた。多層FPCや銀あるいは銅ペーストを印刷したFPCケーブルといったものであるが、ノイズに対する効果はあるもののデジタル信号の高速化に伴う高速伝送特性という観点からは満足のいくレベルには至っていない。また、伝送線路としてはFPCケーブルだけでなく、接続されるコネクタも伝送線路となるため、FPCケーブルとコネクタが一体となった高速伝送特性の向上が必要となってきている。
そこで本稿では、高速伝送特性を満足するFPCケーブルおよびその接続用コネクタの概要と伝送特性の評価結果について報告を行う。

2.コネクタレパートリー
まずはじめに、当社で開発したFPCコネクタのラインアップを紹介する(図1)。
(1)0.3mmピッチFPCコネクタ(EN-31シリーズ)
0.3mmピッチ、実装高さ1.2mmのFPCコネクタであり、低背でありながら多極に対応している。コンタクトは千鳥配列とし、FPCの挿入しやすさとともに安定したFPC 保持力を実現した構造となっている。本製品は、モバイルPC やデジタルスチルカメラ市場での高密度実装に貢献している。
(2)0.4mmピッチFPCコネクタ(EN-42 シリーズ)
0.4mmピッチ、実装高さ0.6mmの超低背タイプのコネクタである。FPCの挿入に関しては自動挿入も想定した構造となっている。本製品は、携帯電話などの小型モバイル機器の小型化に貢献している。
(3)0.5mmピッチFPCコネクタ(EF-5Dシリーズ)
0.5mmピッチ、実装高さ2.5mmの堅牢タイプのコネクタである。当社独自の接続方式によるフロントフリップ構造となっている。本製品は、デジタルTVやカーナビゲーションシステムなどへの搭載が進んでいる。

 
 
(1)0.3mmピッチFPCコネクタ
(EN-31シリーズ)
(2)0.4mmピッチFPCコネクタ
(EN-42シリーズ)
(3)0.5mmピッチFPCコネクタ
(EF-5Dシリーズ)
 
[図1]高速伝送対応コネクタ

 

3.製品コンセプト
FPCケーブルおよびFPCコネクタでの高速伝送対応を図るために、特性インピーダンスとEMI対策の2項目について構造検討を行った。

3―1 特性インピーダンス
データ伝送の高速化により、デジタル信号の伝送損失や反射による波形ひずみなどの問題が懸念される。そこで伝送特性要因のひとつである特性インピーダンスを整合(マッチング)させることが特に重要となる。

3―1―1 コンタクト断面の均一化
FPCケーブルと接続するコネクタのコンタクトにおいても伝送線路となるため、インピーダンスのマッチングが重要である。そこで、コンタクトのどの部位においてもインピーダンスのミスマッチがおきないように、コンタクトの断面積が均一となるような構造が必要となる。今回はコンタクトをベローズ形状とすることで、コネクタに必要なバネ性能を確保しつつ、断面の均一化を図った(図2)。

[図2]コンタクト断面形状

 

3―1―2 コネクタ材料
一般的なFPCコネクタでは、信号線となるコンタクトとそれを保持および隣接ピン間の絶縁の目的でエンジニアリングプラスチック製のインシュレーターとで構成される。このインシュレーター材の誘電率も重要な要因となるため、コネクタ断面構造に最適な材料を選択する必要がある。最終的にはシミュレーションによる検討も実施し、形状の最適化を行った。

3-1-3 FPC パターンの最適化
デジタル信号の高速化を図るためにはシリアル信号による伝送が必須であり、LVDS(Low Voltage Differential Signaling、図3)による伝送を想定し、差動によるインピーダンスマッチングを検討することとした。
FPCケーブルにおいては、後で述べるEMI特性も考慮し両面FPCケーブルを採用することとした。両面FPC ケーブルの構成としては片面を信号線とし、その裏面側をグランド用の銅線ベタあるいはメッシュ構造とした。(図4)これはいわゆるマイクロストリップ伝送線路であり、比較的容易にインピーダンスマッチングを行うことができる。

[図3]LVDS(Low Voltage Differential Signaling)

 

[図4]両面FPCケーブル

 

3-2 EMI対策 

3―2―1 シールドプレートの採用
コネクタ構成としては、インシュレーターとコンタクトという構成に加えて、EMI対策を施すために今回はさらにシールドプレートを採用することとした。(図5(a))シールドプレートは基板と半田付け接続させることでグランド接地が可能となる。また、シールドプレートは両面FPCケーブルのグランド面と接続させる構造とすることにより、FPCケーブルとコネクタが一体となってグランド化できる伝送線路の構造となる。
その他、シールドプレートの剛性により、コネクタの小型化・低背化においてもコネクタの堅牢化に貢献できるという利点も出てくる。
3―2―2 グランドの強化
先に述べたシールドプレートは、さらにコンタクトリード部の間にも半田付けされグランド接地させる構造とした。(図5(b)) これにより、コネクタ信号線間にも複数ポイントでグランド接地させることが可能となり、グランド強化を図ることができる。

[図5]シールドプレートとグランド接地

 

[図6]評価測定サンプル

 

4.高速伝送特性 
次に、コネクタレパートリーの中から代表としてEN-31 での伝送特性結果について報告を行う。

4-1  FPC ケーブル違いによる伝送特性の比較評価
ここではFPCケーブルおよびFPCコネクタにおいて、3章で検討した特性インピーダンスマッチングされたシールド付き両面FPCケーブルと高速伝送対応コネクタ、またそれぞれ高速伝送対応していないノーマルのFPCケーブルとコネクタの組み合わせで伝送特性の比較を行った。
評価の組み合わせおよび測定サンプルの形態を図6、その評価結果を図7に示す。測定については、基板に実装されたコネクタとFPC ケーブルを接続後、基板端面に接続したSMAと測定用プローブを嵌合させ、差動信号を入力し測定を実施した。
特性インピーダンスについては、シールド付き両面FPCケーブルと高速伝送用コネクタの組み合わせの特性が一番良く、逆にノーマルFPCケーブルでの接続では測定不能という結果となった。インサーションロスについても、シールド付き両面FPCケーブルと高速伝送用コネクタの組み合わせの特性が一番良く、ノーマルFPCケーブルとノーマルFPCコネクタの組み合わせでは非常に大きな伝送の損失が確認できた。
以上の結果より、3章で検討したシールド付き両面FPCケーブルとコネクタの組み合わせが最も高速伝送に適していることが確認できる。

 

4-2 細線同軸との伝送特性の比較評価
内部接続用FPCケーブルとしては伝送特性に関する規格がないことより、ここでは伝送特性として市場実績のある細線同軸コネクタとの比較評価を行った。測定サンプルの形態を図8に示す。

[図8]評価測定サンプル

4―2―1 差動インピーダンス
TDR(Time Domain Reflectometry)により測定した結果を図9に示す。立ち上がり速度が78psの高周波数帯域においても、FPCケーブルおよびコネクタ部での特性インピーダンスの乱れは小さく、細線同軸とほぼ同等の結果であることが確認できる。したがって、特性インピーダンスマッチングに関して、本開発コンセプトが反映された結果となっていることが確認できる。 

[図9]TDR測定結果

 

4-2-2  アイパターン
アイパターンの結果を図10 に示す。FPCケーブルにおいてアイの中心、上部、下部の規格領域となるマスクの規定はないが、3Gbps 帯域においても十分なアイ開口となっていることが確認できる。

[図10]アイパターン測定結果

 

4-2-3  ノイズ
ノイズの近傍電磁界の結果を図11 に示す。FPCケーブルの信号面側とグランド面側においてそれぞれ解析を行った。結果として、開発したFPCコネクタの接続においては実装面側/7次高調波にて最大値となった。最大値の比較では、細線同軸コネクタと大差ない結果であった。

5.まとめ
今回の測定結果より、内部接続用としてFPCケーブルでの高速伝送特性を確認することができた。また、本稿では報告していないが、FPC ケーブルの180 度曲げによる伝送特性評価も実施しており、同等の評価結果を確認している。したがって、高速伝送対応でありながら機器内配線の自由度を上げることも可能である。
電子機器の小型化に伴い、機器内部での配線にFPC ケーブルを採用する場合が多い現状からすると、FPCケーブルを使用したままでデジタル信号の高速化が可能となるメリットは計り知れない。
今後はますますデータ伝送の高速化が進むことが予想され、FPCケーブルによる接続における高速伝送特性も更なる進歩が必要となるだろう。

[図11]ノイズ測定結果

 

 

CS事業部 設計部

 

この記事は 月刊EMC 2008年12月号(No.248)に掲載されたものです。

記事PDFはこちら→